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入浴が皮膚を乾燥させる?
正しい入浴剤の選び方、入浴の仕方を知ろう
お風呂の記憶にはどのようなものが残っていますか? 私には幼少時に自宅のお風呂が壊れてしまい、しばらくの間近所の銭湯に通った楽しい記憶があります。広いお風呂、入浴後のヨーグルトなどとともに、菖蒲湯(しょうぶゆ)などの変わり湯があったためでしょう。母によると、私は幼少時にはいわゆる「カラスの行水」どころか大層な風呂嫌いだったそうですが、何とか効を奏したのが「おもちゃ」とカラフルな「入浴剤」だったそうです。思い起こせば、実家が愛媛にあったこともあり、中高生になってからも冬には「みかん類の皮」がよく風呂に浮かんでいたような気がします。みかんにはさまざまな効果があります。果皮に含まれる「リモネン」という精油には血行を促進し、湯冷めしにくく、寝つきがよくなる作用があります。ほのかに甘酸っぱい匂いもリラックスさせてくれます。また、みかんの皮に含まれるビタミンCは、一番風呂に含まれる塩素による酸化作用から肌を守ってくれる効果があると考えられています。
最近ではスーパー銭湯や健康ランドなるものも少なくなく、月変わりで薬湯が設けられています。松湯(1月)、大根湯(2月)、よもぎ湯(3月)、桜湯(4月)、菖蒲湯(5月)、ドクダミ湯(6月)、桃湯(7月)、はっか湯(8月)、菊湯(9月)、生姜湯(10月)、蜜柑湯(11月)、柚子湯(12月)など(http://www.yunokuni.com/index.html)。入浴に伴う物理的・化学的な効果については以前「温泉と皮膚」と題して書きましたので、今回は家庭でも気軽に使用できる入浴剤を題材にして、皮膚の保湿と薬剤の吸収について一緒に考えてみたいと思います。
入浴剤の種類と成分
~入浴剤の効果って、どんなもの? その種類と特徴を知ろう。
入浴剤は化粧品に属するものと医薬部外品に分かれます。さらに製品に含有される成分は多種あるものの、その製品に表示される効能効果は医薬部外品と言えども、「あせも、荒れ性、冷え症、腰痛……」などに限られています。すなわち、いずれの入浴剤も同様の効能効果をうたっているため、消費者の立場に立てばどれを選べばいいのかわからないのが実情であろうと思われます。成分的には、温泉と薬用植物湯に由来する成分を応用したものが大半を占め、それらに酵素、油性成分、界面活性剤、香料、着色料などが添加されています。
①無機塩系
硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)、塩化ナトリウムなどが主成分で、粉末顆粒状が多いといえます。これらの成分は皮膚表面のタンパク質と結合し、体全体に膜を作り、熱の放散を防ぐために温熱効果が持続します(湯冷めしにくい)。硫酸ナトリウムは血液循環をよくする、重曹は皮膚の脂肪汚れを乳化するなどの清浄効果も知られています。「○○温泉の湯」などの名称で販売されている製品は概ねこのタイプに属し、各地の温泉成分を応用したものとなっています。
②炭酸ガス系
炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩とコハク酸、フマル酸などの有機酸を組み合わせた錠剤タイプ。花王の「バブ」が代表的な製品で、中和反応により発生した炭酸ガスを浴水に溶け込ますように工夫されております。炭酸ガスは経皮吸収されると皮内・皮下で血管を拡張させて、血圧の低下と血流量を増加させます。その結果、全身の新陳代謝が促進され、筋肉に蓄積された乳酸の排泄も促進されるので保温効果や疲労回復効果が期待されます。吸収された炭酸ガスは最終的には肺から呼吸とともに排出されます。
③薬用植物系
センキュウ、トウキ、ボウフウ、チンピ、カミツレ、ハッカなどの生薬を配合しています。薬湯としても古くから利用されており、主には生薬に含まれるさまざまな精油が肌をコーティングし、温熱効果を高め、皮膚の炎症を抑えたり、血流増加を促すとされています。また、生薬独特の香りによるリラックス効果も期待されます。
④酵素系
パパイン、パンクレアチンなどのタンパク質分解酵素を無機塩類系成分と組み合わせることで、入浴効果を高めつつ、皮膚表面や毛穴の汚れを酵素の力で皮膚に無理なく、物理的刺激を与えないで清浄することが期待されます。
⑤清涼系
メントールによる冷感や炭酸水素ナトリウム、硫化アルミニウムカリウム(ミョウバン)による清涼感、かつ青色を基調とした色彩を浴水につけることによって視覚的にも爽快感が得られることが期待されます。
⑥スキンケア系
セラミド、コレステロールエステル、米胚芽油、エステル油、スクワラン、ホホバ油、ミネラルオイル、米発酵エキスなどの保湿成分を配合し、剤型的には液体がほとんどです。入浴により角質層が膨潤するために、こうした成分が効率的に皮膚へ浸透し、入浴後の乾燥を抑制することが期待できます。皮膚科で推奨されるのはこのタイプが多く、2e(資生堂)、エモリカ(花王)、バスキーナ(持田製薬)などがあります。
私自身は、入浴時には頂き物の「○○の湯」とベビーオイルを数プッシュ分バスタブに入れて使用していますが、これをするようになってからは冬期の乾燥による痒みと皮膚症状がかなり緩和されました。ものぐさな私には合っているようで、現在ではほとんど習慣化しています。
入浴前後での皮膚変化
~入浴によって皮膚は乾燥する?
「入浴によって皮膚が乾燥する」と聞くと、違和感を覚える方もおられるかも知れません。水に漬かると皮膚(角質層)が水分で飽和(水和)するのに……。しかし、実際に皮膚が乾燥傾向にある人が通常の入浴を行うと、入浴後に皮膚の乾燥症状が悪化したり痒みが増したりすることは少なからず経験されています。皮膚科でも、乾燥性皮膚病の患者さんには、入浴時の石鹸などの使用ばかりではなく、入浴そのものも制限したり、入浴後、皮膚が完全には乾ききらないうちに油分を含んだ保湿剤の使用を徹底させるなどの指導を行うように教えられます。これはどうしてかと言うと、入浴時や入浴直後は皮膚が水和(皮膚に十分に水分が浸透している)しているため、肌は一見潤っているように感じられますが、様々な保湿因子も流れ出てしまっているために時間が経つに従って、以前にも増して乾燥(角質層の水分量低下)が起きてしまうからです。保湿剤を含めた局所薬は無傷の皮膚よりも角質層のバリアが破壊されていたほうがよく浸透し、湿った角質層では乾燥した角質層よりも10~100倍有効に浸透するとも言われています。入浴で角質層が水和すると、角質細胞間の距離が拡大されるため、結果として細胞間の結合と粘着力を低下させて落屑を促進させてしまいます。一方角質層が適度な水分を含むことは各種の酵素の働きにも必要であり、角質デスモゾーム(接着分子)の正常な分解と落屑につながります。シャワーや短時間の入浴ではこうした効果は薄れるので、20分くらいじっくりとお湯に浸かり、その後すぐにワセリンなどの保湿剤を使用することがお勧めです。 上述のように、入浴時の角質層が水和した状態では、さまざまな成分が皮膚へ吸収されやすくなります。入浴中には広範囲にわたる成分を適用できる可能性から、入浴剤の使用が有効なスキンケアの手段としても期待されています。
角質層の水分保持メカニズム
~皮脂膜、NMF(天然保湿因子)、細胞間脂質の連携が重要
①「皮脂膜」が皮膚表面を覆って、水分の蒸発を防ぐ
皮脂腺からの皮脂と、表皮細胞由来の表皮性脂質、さらには汗が皮膚表面で混じりあい、水分と油分が乳化した状態で「皮脂膜」が作られています。皮脂膜はシール状となって皮膚表面を覆い、角質層の水分喪失を防いでいます。石鹸を使用するとすぐに皮脂膜は洗い流されてしまうので、ツッパリ感を感じてしまいます。
②「NMF」が水分をひきつける
NMFは遊離アミノ酸やP.C.A、尿酸などのアミノ酸代謝物などの水溶性タンパクや無機塩から成ります。水につけたからといって簡単に流れ出ないのは細胞間脂質(③参照)に守られているからですが、洗剤などで過度に脱脂されると、脂質が破壊されるとともにNMFも急激に失われてしまいます。
③「細胞間脂質」がサンドイッチ状に親水部間に水分を挟み込む
スフィンゴ脂質と総称される、セラミドの事です。化粧品成分として使用されるものには、哺乳類や植物からの抽出以外にも、微生物醗酵を利用したものもあり、当院の院内製剤は紀文の醗酵セラミドを使用しています。
参照:湯の国Web(http://www.yunokuni.com/index.html)、ツムラ温泉科学プロジェクト(http://www.onsenkagaku.com/science/03_03.html)、洗いの殿堂(http://www.arainodendo.com/)、お風呂ゼミナール(http://www.kao.co.jp/bath/)、岩瀬ら(皮膚病診療1999;21(7):655-62)、Gutman et.al(Arch Dermatol 2005;141:1556-59)、浅田康夫(美容皮膚科学事典 2002;中央書院)など